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文部科学省TOSS受託事業

効果検証

効果検証

効果検証概要

本事業ではアンケート調査を行い、指標の効果の検証を行なった。調査はセミナーの参加者へインターネットを用いて調査を行い、本事業のセミナー参加者と非参加者を対象として、職場ストレス(精神衛生)の軽減、授業実践についての自己評価の向上に対する効果の検証を目的とし、「『若手教員の授業力構成要素の抽出とその向上手法事業によるセミナー(以下、文部科学省教師力向上セミナー)』を受講した教師は、そうでない教師に比べて、授業に対するスキルが向上し、授業の遅延が少なくなる。また心理的ストレスが軽減される。」ことを仮説として設定した。

尚、本事業と並行して行われた文部科学省受託事業「教員研修センター初任者用テキスト活用セミナー」との相互の効果検証を行うことが、より本質的な授業力の解明につながると考え、一部双方の研究結果を以下に記載する。

効果検証研究

公益社団法人 子どもの発達科学研究所

1 研究の目的
本研究は「文部科学省教師力向上セミナー」の参加者について、ストレスの軽減と、授業実践についての自己評価向上に対する効果の検証を目的とする。
仮説:「文部科学省教師力向上セミナー」を受講した教職員は、研修を受けていない教職員に比べて、ストレスが軽減される。また授業に対するスキルが向上し、授業の遅延が少なくなる。

2 研究の方法
2-1.調査対象者
本研究は、①文部科学省教師力向上セミナー、②教員免許更新研修の2つの研修の両方、またはいずれかに参加した教職員と、どちらも参加していない教職員、合計439名を対象とする。研修に参加した教職員に対しては、本調査への参加を口頭、文書、メールで呼びかけ、参加に同意した者を対象とした。また、研修に参加していない教職員に対しては、教師向けウェブサイトの中で募集を行い、参加に同意した者を対象とした。
対象者の研修参加に関する内訳は以下の通りである。
教師力向上セミナーのみ参加:90名(19.6%)
教員免許更新研修のみ参加:33名(7.2%)
両方参加した:6名(1.3%)
参加していない:330名(71.9%)
調査対象者459名のうち男性が260名(59.2%)、女性が179名(40.8%)であった。平均年齢は40.0歳、教職平均経験年数は15.4年であった。所属する学校種の内訳は、小学校74.0%、中学校19.8%、高等学校3.6%、特別支援学校2.3%、その他0.2%であった。参加研修ごとの性別、平均年齢、平均教職員歴を表1に示す。

表1. 研修ごとの対象者の性別、年齢、教職員歴について

図1. 対象者の年齢と教員経験年数の分布

2-2.調査方法
質問項目に対する回答は、ネットリサーチシステムを使用し、対象者は無記名で質問に解答した。ただし、第1回と第2回の回答の突合のため、固有のID番号を使用した。
第1回の調査時期は研修参加前である2016年8月~11月、第2回は2つの研修終了後の2017年1月に行った。

2-3.調査項目
調査項目については、下記のとおりである。
<ストレス評価について>
厚生労働省が作成した「職業性ストレス簡易調査票」を用いた。これは、職場で比較的簡便に使用できる57項目の自己記入式のストレス調査票であり、仕事のストレス要因(心理的な仕事の量的負担、心理的な仕事の質的負担、身体的負担、コントロール、技術の活用、対人関係、職場環境、仕事の適性度、働きがいの9尺度)、ストレス反応(ポジティブな心理的反応の尺度として活気、ネガティブな心理的反応の尺度としてイライラ感、疲労感、不安感、抑うつ感の5尺度)、修飾要因(上司、同僚、および配偶者・家族・友人からのサポート 9 項目および仕事あるいは家庭生活に対する満足度)の大きく3つから構成される。各項目に対する回答は 4 件法(1=そうだ、2=まあそうだ、3=ややちがう、4=ちがう)で、全項目の回答に要する時間は10分程度である。

<授業進度について>
各研修の受講者に対して、次のようなアンケート調査を実施した。回答は次の選択肢から得られた:1=いいえ、2=少しは変化があった、3=大いに変化があった、4=受けていないので評価できない。

授業進度への効果:セミナーの結果、授業進度等が早くなりましたか。
学んだことの実践化:新しく学んだことで、実際に教室で実践してみたことがありますか。
実践への貢献:新しく学んだことで、役にたったと実感できたものがありましたか。
授業のやり方の向上:学んだことにより、自分の授業のやり方がより良くなったと思いますか。

2-4. 解析方法
<ストレス評価について>
「職業性ストレス簡易調査票」の仕事のストレス要因、ストレス反応、修飾要因それぞれについて、1回目調査と2回目調査の得点差を求め、これをアウトカムとした。対象者は研修参加の有無によって4群(教師力向上セミナー群、教員免許更新研修群、両方参加群、参加なし群)に分けられ、参加なし群を基準として各群の効果を比較した。解析には重回帰分析を用い、参加者の性別、年齢、教職員歴を交絡因子として統制した。

<授業進度について>
各研修の参加者に対して行われたアンケートについては、集計結果を比較した。

3 結果
<ストレス評価について>
「職業性ストレス簡易調査票」の仕事のストレス要因、ストレス反応、修飾要因それぞれについて、各研修参加群の効果を比較した結果、仕事のストレス要因について、教師力向上セミナー群では研修参加なし群と比較してストレス得点が低くなる結果が得られた(表2;回帰係数-1.37、p = 0.02))。また、修飾要因について、教師力向上セミナー群では研修参加なし群と比較してストレス得点が低くなる結果が得られた(表3;回帰係数-1.23、p = 0.02))。ストレス反応については、研修参加の有意な効果はみられなかった。

表2.仕事のストレス要因に対する各研修群の効果

表3.修飾要因に対する各研修群の効果

<授業進度について>
教師力向上セミナーと教員免許更新研修それぞれを受講した後の「授業進度」、「実践したこと」、「役に立ったこと」、「授業のやり方の改善」それぞれの回答結果は表4、図2の通りであった。教師力向上セミナー参加者の方が、免許更新研修参加者よりも、研修効果について高く評価する傾向がみられた。

表4.各研修に対するアンケート結果

図2.各研修に対するアンケート結果

4 考察
本研究の結果、「職業性ストレス簡易調査票」で測定される仕事のストレス要因と修飾要因に関して、文部科学省教師力向上セミナー受講の効果は統計学的に有意であると確認された。仕事のストレス要因に関する尺度は「非常にたくさんの仕事をしなければならない」「自分のペースで仕事ができる」「時間内に仕事が処理しきれない」「仕事の内容は自分にあっている」などの自分の仕事や職場に対する捉え方についての項目となっている。本セミナー受講者は、受講していない教職員と比較して、セミナー受講後に職場ストレスを軽減させたと考えられる。また修飾要因は、上司や同僚、家族などに対して「どのくらい気軽に話ができるか」、「困った時、どのくらい頼りになるか」などの項目で、職場や家庭での人間関係の捉え方についての項目になっている。本セミナー受講者は、受講していない教職員と比較して、上司、同僚、家族等からのサポートおよび仕事や家庭生活に対する満足度を向上させることができたと考えられる。
研修を受けたことによる「授業進度」「実践したこと」「役に立ったこと」「授業のやり方の改善」への効果のいずれについても、「文部科学省教師力向上セミナー」の参加者は、免許更新講習の参加者よりより高い評価をしていた。「文部科学省教師力向上セミナー」の受講者の回答を詳しく見ると、91.2%が、「セミナーで新しく学んだことを実際に教室で実践してみた」と回答し、「少しはあった」「かなりあった」を合わせて97.6%が「役にたったと実感できたものがあった」と回答している。また、「やや思う」「とても思う」を合わせて93.7%が「自分の授業のやり方がより良くなった」と思うと回答している。更に、授業進度について、68.2%が「少し変化があった」「大いに変化があった」と回答している。これらの質問項目は回答者自身の実感であって、授業進度や事業内容の向上を客観的な指標を用いて評価したものではないが、これらの回答から、教師自身の本セミナーで学んだことを積極的に授業実践で生かし、その結果、自身の授業実践の質的向上や実際的な授業進度への効果を実感していることが明らかとなった。これらは、教師自身の事業実践に関する自己効力感の向上に明確につながるであろう。
ストレス軽減に対する効果と、セミナーの効果についてのアンケート結果を合わせると、本講座の受講者について、以下のように推察することができる。
『受講者は、本セミナーで授業に生かすことができる実践的内容を学び、実際に授業においてそれを実践することができた。更に、授業実践内容の向上を実感し進度的にも順調に授業を進めることができるようになった。その結果、研修前よりも、仕事や職場、また職場等の人間関係について肯定的な捉え方ができるようになり、職場ストレスが軽減した。』

(公益社団法人)子どもの発達科学研究所
研究責任者:主席研究員 和久田学
解析責任者:上席研究員 西村倫子
研究補助・主任研究員 大須賀優子