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文部科学省TOSS受託事業

独自作成評価指標

独自作成評価指標

教員育成指標の作成が必要

授業の中で児童・生徒の問題行動にうまく対応できず学級が荒れていくケースがある。原因は様々あるが、重要なポイントの一つは教師の授業力である。子どもを熱中させ、ひき付け、できない子をできるようにする授業、それを実現する力がある教師の学級はほとんど荒れない。

平成27年12月の中教審答申「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」の中で「教員育成指標」の策定の必要性が指摘された 。とりわけ新卒から数年目までの、教職の基盤を固める時期にどのような資質や能力を身につけるべきなのか、教員は必ずしも明確に意識していないことが多い。学校や地域の実情によって異なることは当然だが、ごく基本的な授業力に関しては共通する具体的な要素が存在すると思われる。

先行研究を参考に独自の評価指標を作成

こうした「授業スキル」の具体的な測定指標については、先行的な実践事例として「TOSS授業技量検定」がある 。また、諸外国には「immediacy」と言われる教師と生徒との言語的・非言語的関係性を重視する研究も多数みられる 。
教師のこのような授業力を構成する要素を探り、それを向上させるための具体的なトレーニング方法を確立することが急務である。本調査研究では、こうした授業スキルについての先行研究を参考にしながら10の指標を設定し、それぞれに3つのサブインデックスを設けた。
これらが授業のすべてを規定するものではないことは当然である。しかし、ごく初歩的な段階での目安としては各校で参考にしていただける部分もあると考える。今後、アンケート調査結果の分析などを進めながら、より効果的な内容と形式にしていくことが必要である。

10の指標とそれぞれ3つのサブタイトルにて構成

1 本指標がなぜ重要か
教師による授業行為において基本となるものが、「発問」である。授業は、教師による「発問」によって始められることが多い。
児童・生徒に代表される「学習者」は、教師による「発問」をもとに、自らの思考を深め、お互いの意見を発表し合い、学んだことをノートに記録するなどして、学習を進めていく。
そのような授業の大切な起点となる「発問」が、どのようなものであるかを規定しているのが、本指標である。

2本指標の解説
発問とは、「学習指導上の必要から、学習者に対して教師から発せられる問いかけ」(『国語教育指導用語辞典(第三版)』から引用)である。
ここでの第一のポイントは、誰に向けて行われるものかということにある。それは、「学習者」(一般的には、「児童・生徒」)である。つまり、児童・生徒に伝わらなければ、「発問」としての意味をなさない。本指標にある「分かりやすい」という文言は、児童・生徒が、その「発問」をされた場合に「分かりやすい」と感じられるかどうかということを、基本としている。
児童・生徒は、その発達段階において、一様ではない。授業が行われる教室において、教師の「発問」を聞くすべての児童・生徒が、「分かりやすい」を感じられる「発問」をすることが、重要である。
次に、「発問」とは、「学習指導上の必要」においてなされなければならない。その点において求められるのが、本指標における「意図が明確」ということである。その「発問」を聞く児童・生徒にとって、突拍子もない「発問」の連続では、授業での理解が深まらない。なぜ、そのような「発問」がなされているのか、教師側の意図が明確であることによって、その授業を受ける児童・生徒が、安心して自らの思考を深めていくことができる。

3 本指標の伸ばし方・練習方法
「発問」とは、教師による「言葉」によって行われることが多い。時には、視覚的な情報も併せて行われることもある。いずれにしても、児童・生徒への分かりやすさを第一とするので、必要最小限度の「言葉」に削ることが求められる。「言葉」への吟味が、必要だろう。そして、授業全体を通した「発問」の組み立てを、その整合性をもとに考え抜くことが必要である。

1 本指標がなぜ重要か  授業は、子どもたちを最初から集中させ、興味を惹かせることが大切である。最初だからこそ、どの子も、多少なりとも期待感をもって授業に臨んでいる。最初の段階で、子どもたちの心をつかみ取るために、教師は最大限の配慮をする。 万が一、最初から、子どもたちの興味を失ってしまうようなことになれば、その後の展開は、非常に難しいものになるだろう。子どもの心が離れてしまっているものを、再び惹きつけるのは、何も無い状態より多くの労力を必要とする。つまり、マイナスからのスタートになってしまう。 授業は、子どもたちの活動によって、進められる。その活動を行わせるものが、教師による「指示」である。「指示」とは、「教師が教育的意図をもって、子どもを活動させるために、主に言葉を用いて指図すること」(『新教育学大事典』(第一法規)より引用)と定義される。 本指標に示されるように、教師による最初の「指示」が分かりやすいことが、その後の授業における「活動」に、多大の影響を与えることになる。

2 本指標の伸ばし方 子どもたちへの「分かりやすい指示」とは、どのようなものだろうか。このことを、まず、教師自身が突き詰めて考える必要がある。教師による「指示」が、子どもたちに伝わり、その後の子どもたちの「活動」がスムーズに行われれば、その「指示」がよかったということになる。 向山洋一氏は、『授業の腕を上げる法則』(学芸みらい教育新書)のなかの「授業の原則十ヵ条」で、「指示」について、以下のように述べている。

第二条 一時一事の原則  一時に一事を指示せよ。
第三条 簡明の原則    発問・指示は短く限定して延べよ。(一部 抜粋)

子どもたちに行われる「指示」は、基本的に「一時に一事」が原則である。特に、授業最初の「指示」においては、それが徹底されなければならない。教師が、そのことを常に意識し、毎時間行われる授業のたびに実践していくとが、「本指標」を伸ばす具体的な練習法となる。次に、「指示」する言葉は、「簡明」を原則とする。発達段階に応じて、難しい内容を簡単な言葉に言いかえることは、もちろんのこと、必要最小限の「言葉数」にすることで、余計な情報を受け取らせないようにする。授業最初の「指示」を音声に録音するなどして、授業後に聞いてみるとよい。努力の方向が見えてくる。

1 本指標がなぜ重要か
「無意図的で無駄な発問」によって、子どもたちは、授業において、無駄な思考、無駄な活動、そして、無駄な時間を過ごしてしまうことになる。授業では、それを極力無くしていくことが肝要である。向山洋一氏は、『教え方のプロ・向山洋一全集47発問一つで始まる「指名なし討論」』にて、以下のように述べている。

A ムダな発問とは、すでに知っていることを延々と聞くことである。
B ムリな発問とは、意味が不明な質問である。
たとえば、次のような発問である。
① 短く言い切れない発問
② 言うたびに言葉が微妙に変化する発問
③ 語尾が不明確である発問(作業指示が示されていない発問)
④ 主語がない発問
C ムラのある発問とは、いちいち子どもの答えに反応していて、中心からズレてしまった発問である。

逆に言えば、「意図的」で意味のある「発問」を子どもたちにするには、どうすればいいかということを考える。「意図的」であるとは、教師が構想をもっている授業の本筋から外れていないということである。そのような「本筋」に沿って、授業はすすめられる。向山洋一氏は、「授業の本筋」から外れないことを、以下のように述べている。

 授業というのは一本の骨太な全体の路線でつながれている。そこからぶれない。仮にそれることがあったにしても必ず元にもどる。それが授業であると思っています。(同上)

2 本指標の伸ばし方・練習方法
授業における「発問」は、主に教師による言葉によって行われる。教師は、その「発問」の言葉を最大限に吟味すると同時に、どのような場面でその「発問」をするのかということに熟慮する。向山洋一氏は、以下のように述べる。

 指示・発問は短く限定して延べよ。       『授業の腕をあげる法則』

まず、「発問」の言葉を短くすることを考える。「発問」をノートに書き出し、いらない言葉はないか、別の短い言葉に言い換えることはできないか、吟味する。そして、「発問」をする範囲は、限定する。教師によって行われる子どもの思考・活動が、常に、「授業の本筋」に戻れるようにしておく。

1 本指標がなぜ重要か
45分間の一つの授業において、単一の「発問」のみで、授業が成立することはほとんどない。通常の授業は、補助発問も含め、複数の「発問」が組み合わさることによって、成立する。それらの「発問」同士の関連性に焦点を当てているのが、本指標である。
『新教育学大事典』(第一法規)によれば、「発問」には、「論理的な組織化」が必要とされる。つまり、「前の発問と後の発問が、あるいは発問がその前後の教師の説明や指示とも矛盾しないこと。主要発問が論理必然的に出てくるようにそれ以前の説明や助言や指示や補助発問をその伏線として配置すること、を条件とする」とある。
複数の発問が行われる場合には、当然、教師側の「意図」をもった「流れ」が存在する。しかし、その「流れ」が、授業を受ける側である子どもたちにとって、前後の矛盾なく、分かりやすいものでなければならない。そして、それぞれの「発問」が、子どもたちの思考を徐々に深めていけるようなもの、さらに、意外な発見(「あれども見えず」のようなもの)を促すような「伏線」を含んでいるものであることが望ましい。

2 本指標の伸ばし方・練習方法
向山洋一氏は、『〔教師修業③〕授業の腕をみがく』(明治図書)において、次のように述べている。

考えぬいた発問(言葉)を、正確にくり返せることが大切だ。

向山氏は、「たった一つの発問を考えるために、十一時まで学校に残ったことがある」という。ここぞという時の「発問」を考える際には、それほどの労力をかけて取り組むことが大切である。「一字一句に至るまで考えぬく」経験を、教師がどれほどもっているかが、問われている。
また、向山氏は、「授業の流れ」に関しても、以下のように述べている。

授業の流れは、
「一つ一つの部分がみがきぬかれていること」
「全体の組み立てが骨太であること」
「ゆったりとしたあわてない流れであるがほんのすこしのゆるみもないこと」が必要となる。
『教室ツーウェイ』2001年5月号(明治図書)10~11ページ

大切なことは、教師がどのような「意図」をもって授業するかということにある。その「意図」をもとに、無駄な部分を省いていくことが必要である。

1 本指標が重要な訳
教師の言葉は、往々にして長い。長い方がいいと思っている人がいる。
長い方が丁寧だと考えている人もいる。
しかし、長ければ長いほど、子どもにとっては分からなくなってくる。
例えば、「計算問題の5番まで終わったら、自分で〇付けをして、それから先生のところに見せに来なさい。間違えたところはやり直して、また持って来なさい。全部できたら合格ですので、その後、読書をして待ちなさい。」などと言う人がいる。
子どもは、最後の「読書」しか頭に残らず、本を取りに行って、先生に叱られる。これは、教師が悪い。
人間には、ワーキングメモリーがあり、一瞬にはそれほど多くのことを記憶できない。
これは、特別支援教育ではもはや常識的なことになりつつあるが、そのようなことを知らないと、つい先ほどのような指示を出してしまう。
子どもは、先生の指示を守ろうとしているのに、叱られてしまうのだ。このようなことの繰り返しでは、教師と子供の信頼関係は作れない。反発する子どもを生んでしまう。
だからこそ、「指示はどのように出せばいいのか」「指示の長さはどの程度がいいのか」ということを検討しておかなければならない。きわめて重要な指標である。

2 各3点配点の理由
本指標は以下の3つの下位項目でなっている。
①指示が端的で短い。(3点)
②発問に作業指示を組み合わせている。(3点)
③数種類の作業指示を使い分けている。(3点)
特質すべきは、これら下位項目の得点が、「意図が明確で分かりやすい発問」と同様、すべて3点であるということだ。この3点というのは、難しい。例えば、①の「指示が端的で短い。」という項目において、3点満点のところ3点を取らないと先に進めない。
発する指示が、端的でなければ3点にはならない。言葉が長ければ、これも当然ながら3点にならない。1点、2点では、そこで終了する。
この厳しさこそが、この指標の重要性を表している。これは、この指標が授業を大きく左右するものであり、学級経営にも影響を及ぼすからである。
この指標を自分のものにすれば、様々な場面で効果的な指示を出すことが可能になるので、安定した授業及び学級経営の実現により近づくこととなる。

1 端的な指示の内容
指示が端的というのは、二つの要素が含まれている。
一つは教師の言葉遣いによる端的さであり、もう一つは内容の端的さである。
教師の言葉遣いによる端的さは、歯切れの良さやはっきりした語尾などがあげられる。
小さくてもったりとした声は、子どもでなくとも聞き取りにくい。教師の口調は、いわゆる「はきはきとした口調」にならなくてはならない。
語尾がはっきりしていることも、端的さには欠かせない要素である。語尾がはっきりしない声は、最後がもやもやとした状態になり、極端な場合はほとんど聞き取れなくなっている。
逆に、はきはきとした口調は、言葉にリズムを生み出しテンポを良くする。
内容の端的さとは、主語と述語がはっきりしていることである。「誰が」「何をするのか」を明確に指示することが必要である。

2 短い指示の内容
短い指示とは、どのくらいの時間だろうか。
向山洋一氏は著書の中で「30秒を超える説明は、駄目です。私はたぶん10秒以内です。」と言っている。
体育の授業は、子どもの活動量をどれほど確保するかが問われる。教師の指示が長ければ、その分活動する時間が削られてしまう。
向山氏の跳び箱指導では、「1人が3回跳んだら、先生のところに集まります。」と言っている。これを実際に言ってみると約4~5秒である。短い指示とは、これほどまでに削られた指示となる。

3 端的で短い指示を出す技能の身に付け方
端的で短い指示を出す技能を身に付けるためには、まず自分の指示はどうなっているかを知ることから始めると良い。自分が子どもたちに指示を出している場面を録音して、自分が出した指示を聞いてみる。
長い指示を出しているときは、その指示を書き出してみる。そして、いらない部分を削ってみる。洗練された短い指示になるだろう。
しかし、一度や二度やっても、この技能は身に付かない。継続した取り組みが必要だ。できれば、毎時間、出だしの3分だけでもいいから行ってみる。継続した練習の結果、端的で短い指示を出す技能は身に付いてくる。

1 発問として成立しているか。
この項目を評定してもらうには、先の「①短くて端的な指示」をクリアーしなければならない。したがって、この項目で評定される作業指示は、当然ながら短くて端的であることは言うまでもない。
文部科学省によれば、発問は「子供の思考・認識過程を経るもの」とされている。
具体例として、桃太郎を取り上げ、例えば「桃太郎は鬼退治に行ったのですか。」と問えば、答えは「はい」としか言いようがない。このように、子供が考える余地がないものは発問とは言えない。「桃太郎のお話を20文字で要約しなさい。」と問えば、子供たちは思考を巡らせ、「猿、犬、キジとともに鬼退治をした桃太郎」などと答える。まずは、このように発問として成立しているかが問われる。

2 作業指示を組み合わせているか。
先の発問を例にとると、「桃太郎のお話を20文字で要約しなさい。」と問うて、そこで終わってしまう教師は多い。子供たちが具体的に何をすればいいのかが示されていない。子供たちに具体的な行動をさせるのが、作業指示である。
例えば、「ノートに書きなさい。」「分かる人は、手を挙げなさい。」「周りの人と相談しなさい。」などの作業指示が挙げられる。これらの作業指示が、発問とセットで出されているかが重要になる。

3 効果的な組み合わせで、子供の活動を促しているか。
具体的な活動をさせる作業指示が、発問内容、子供の状態、経過時間などを考えて、適切に出されているかなども評定される。
じっくり考えさせたい場合は、ノートに書かせなくてはならない。挙手等で答えを求めてしまうと、いわゆる「できる子」を中心として学習が進んでしまう。ノートに書かせたうえで、発言を求めようとしても、自信のない子たちは固まってしまう。活発な意見を求めたい場合は、周りの子と答えを確かめ合わせる。このことによって、「自分の考えは正しいかもしれない。」と自信をもたせたり、「なるほど、そのような考えもあるか。」と新たな視点を得させたりすることもできる。
授業開始時に、学習内容の情報を全員が共有化するために挙手指名を多用したり、中心発問ではじっくり考えさせたりする。授業の終盤では、簡単な作業で授業時間を正確に守るなど、意図をもった作業指示であるかなども評定される。

1 作業指示をたくさんもつ
下位項目③の評定をされるということは、「①指示が端的で短い。」の3点、「②発問に作業指示を組み合わせて子供の活動を促している。」の3点を合わせて6点を獲得した上で、この下位項目③の「数種類の作業指示を使い分けている」が評定される。
発問と作業指示は、必ずセットにするわけであるから、子供を動かす作業指示をどれだけもっているかが問われてくる。
その場の状況に応じて、的確に使い分けるのであるから、乏しい数では到底使い分けはできない。
具体例を挙げると、次のような作業指示が教室では多く使われている。
・できたら「できました」と言いなさい。   ・分かるところに線を引きなさい。
・分かったら座りなさい。全員起立。     ・教科書・資料集で調べなさい。
・指で押さえなさい。            ・終わったら、教科書を読んでいなさい。
これらを発問とセットで必ず指示する。そのためには、どのような作業指示があるかをできるだけ多く考えて、ノートに書き出しておくことをお勧めする。

2 目的により使い分ける
作業指示を出す際に、いつでも同じようなパターンでは、マンネリとした授業となってしまう。
子供の状態を見たり、発問の内容を吟味したりして、使い分ける必要がある。

【子供の状態や発問の意図】 【使い分けたい作業指示】
子供が自分の答えに自信がない。 周りの人と相談しなさい。
じっくりと考えさせたい。 自分の考えをノートに書きなさい。
子供の状況を把握したい。 書き終わった人は見せに来なさい。
多様な発言を引き出したい。 黒板に自分の考えを書きなさい。
多様な意見に気付かせたい。 自分と違う意見を付け足しなさい。
低位の子に必ず意見をもたせたい。 最も良い意見をノートに書きなさい。

作業指示は、端的で短く、発問と効果的に組み合わせ、目的をもって発していく。これらのすべてをこなして、この指標は満点となる。難易度の高い指標であるが、これらをこなす力が身に付けば、授業は大変活性化する。

1 本指標が重要な訳
笑顔で授業をする。これは教師の基本的なスキルであり、授業の「前提条件」である。
あたたかな表情で授業をする教師と、眉間にしわを寄せながら強張った表情で授業をする教師。どちらが子どもにとって良い教師であるかは、論じる必要がないであろう。
しかし、あたたかな表情で毎時間授業をしている教師ばかりであるかというと、そうではない。笑顔を絶やさずに授業を行うことは実は非常に難しいことである。
試しに一度自分の授業をビデオにとって見てみるとよい。1時間笑顔で授業を行うことの難しさを痛感するはずである。
授業の名人である有田和正氏は、50歳を超えても笑顔の練習を絶えず行っていたという。また、向山洋一氏も「笑顔を練習しなさい」と氏の講座で繰り返し述べている。
看護師さんたちが笑顔で働くように努力している病院では、患者さんの治癒率が統計的に高いという。まして、教師は感受性豊かな子ども達を教えるプロなのだから、笑顔の練習をして教壇に立つなど当たり前のことだといえる。

2 各3点配点の理由
本指標は以下の3つの下位項目でなっている。
①授業の開始を笑顔で始めている。(1点)
②あたたかな笑顔を最後まで保持している。(1点)
③場面に応じて表情を豊かに使い分けている。(1点)
授業は出だしが肝心である。教師が笑顔で授業を始め、子ども達の発言をきちんと取り上げて授業をするならば、子ども達も安心して意見を発表し、活発な授業になっていくはずである。逆に、威圧的な表情で教師が授業を始めれば、子ども達は委縮し、重い雰囲気の授業になってしまうだろう。教師が笑顔で授業を開始するということは、1時間の授業の雰囲気を規定するぐらい大切なことなのである。
そのためには、笑顔の練習が必要である。短時間なら、笑顔になることは難しいことではない。しかし、②の指標のように1時間の授業中ずっと笑顔を保持するとなると、これは容易なことではない。毎日鏡に向かって笑顔の練習をし、頬の筋肉をコントロールできるようにすることくらい当たり前である。
③の指標ができるようになるには、研究授業や模擬授業に何度も挑戦する努力と経験が必要である。たくさんの人に見られる中でも、笑顔で1時間授業ができるようになるためには、何度も緊張場面に自分自身をさらしていくしかない。

1 笑顔で子どもの前に立つ
子ども達は、教師が思っている以上に教師の表情や雰囲気に敏感である。
教師が怒った表情で教室に入ってくれば、「先生、何かあったかな。」と身構えたり、具合が悪そうな表情であれば「大丈夫かな。」と心配したりしてしまう。
教師の表情は、子ども達とって非常に強い刺激物でもあるのだ。
だからこそ、教師は授業の開始を笑顔で始められることが「前提条件」なのである。
当然のことであるが、授業の開始に笑顔になれなければ、次の項目である「②あたたかな笑顔を最後まで保持している。」ことも、「③場面に応じて表情を豊かに使い分けている。」こともできはしないだろう。まずは、授業の開始を笑顔で始められるように、自分の表情をコントロールできるよう練習することが大切である。

2 笑顔で学習することで学習効率を上げる
顔の筋肉を笑顔の状態にすると、それだけでドーパミンなどのホルモンが分泌されて、人は楽しさを感じることが分かっている。また、人の顔を見ると共感能力をつかさどっている「ミラーニューロン」が無意識にそれを模倣することも分かっている。つまり、「子ども達が見ている教師の表情が笑顔ならば、子ども達も自然と笑顔になる」のである。
世界的脳科学者の林成之氏は、「笑顔になると、脳のパフォーマンスが上がる」と述べている。子ども達が笑顔で学習できるようにすれば、学習効率が良くなるということである。
このように、教師の笑顔は、子どもの学習にも大きな影響を与えるのである。

3 授業の開始を笑顔で始める技能の身に付け方
笑顔は練習するものである。例えば、私は歯を磨くときに鏡に向かってニコッと笑顔を作る練習をした。時には前歯を磨いている際の口角を保持しながら、目を見開いたり眉毛を上げたりしながら、顔のどこの筋肉を動かせば笑顔になるのかを研究したこともあった。
また、ルーティーンを決めることもお勧めである。私は、毎朝職員室を出て教室に向かう階段を上り終えるまでに必ず笑顔になると決めている。体調が悪くても、機嫌が悪くても必ず階段で笑顔を作るのである。そして、その表情で教室へ入るようにするのである。
当然のことだが、授業の流れを確定しておくことも大切である。特に、若い教師なら1時

1 本指標が重要な訳
この項目は、先の「①授業の開始を笑顔で始めている」とは段違いに難しい。
授業の開始だけならば、笑顔でいることはできるかもしれない。しかし、それを最後まで保持することは容易ではない。
なぜならば、授業は教師と子どもとのやり取りのなかで成立していくものであり、毎回教師の意図する方向にばかり授業が進んでいくとは限らないからである。
時には、こちら側の考えの範疇にない意見を言ったり、行動をしたりすることもあるだろう。その際に、笑顔で「いいね!素晴らしい意見だ!」と返したり、その子の言動を否定せずに笑顔で授業を続けたりするには、教師の器の大きさとゆとり、そして瞬発的な対応力が必要になってくる。
授業が上手い、授業の名人と呼ばれる人は、笑顔で授業をすることはもちろん、子どもへのあたたかな対応が抜群に優れているのである。
つまり、「あたたかな笑顔を最後まで保持している」という本項目を達成するためには、「あたたかな笑顔」と「あたたかな対応」の二つを満たしていなければならないのである。
子どもへのあたたかな対応力は、すぐに身に付く技能ではない。笑顔と同様に、練習が必要である。

2 本指標の伸ばし方
例えば、本指標に沿った教師の行為を細分化してチェックリストを作る方法がある。
①笑顔で授業を開始している。
②落ち着いた声で子ども達に話しかけている。
③ほめ言葉が多く、適切である。
④間違った子ども、失敗した子どもへの対応があたたかく適切である。
⑤子どもも教師も授業中に声を出して笑う場面がある。
⑥笑顔で授業を終えている。
リストの項目は、自分で工夫して修正していけばよい。机の隅にリストを貼って、毎日見るようにすれば、本指標を意識して授業に臨むようになる。また、時には授業をビデオに録画し、授業のはじめ、中、終わりの映像だけを見ることでメタ認知することができる。
このように、毎日の授業で本指標を意識することはもちろん、その上でさらに模擬授業や研究授業などの緊張場面に何度も挑戦し、同僚などからコメントをもらうことで少しずつ技能を身に付けていくことが大切である。

1 表情によって得られる効果を知る
本項目は、「②あたたかな笑顔を最後まで保持している」をクリアーして評定される。したがって、授業を笑顔で進められることをベースとして、さらに場面に応じて表情をバリエーション豊かに使い分ける技能を身に付けているかが問われることとなる。
例えば、子どもが素晴らしい意見を発表した場面を思い浮かべてほしい。教師はどのような対応をとるべきであろうか。笑顔で子どもをほめる。これは当然あり得るだろう。
さらに「先生、びっくりした!すごくいい意見だね。」と、「驚いてから、ほめる」という対応もある。驚くという表情を加えることによって、より強調して子どもをほめることができる。教師が驚くことによって、「自分も発表したい」と子どもの心に火をつけ、意見を次々に引き出して授業を活性化させることにもつながるだろう。
また、子どもの発言や活動を見守る場面では、穏やかに「ほほ笑む」こともあれば、やさしくうなずきながら「見つめる」こともあるだろう。
「ほほ笑み」や「見つめる」という表情は、「セロトニン」の分泌を促す。セロトニンは、平常心や安心感をもたらす神経伝達物質である。特に、対人不安を引き起こしている子どもに安心感を与えるのに有効な表情である。
このように、教師は表情によって得られる効果を知り、また実際に場面に応じて数多くの表情を豊かに使い分けることができる技能を身に付けなければならない。

2 表情を使い分ける
算数の時間に「ノートに式を書きなさい。」と指示したにも関わらず、全く作業をしない子がいたとする。このような場面で、声を荒立てて叱ることは誰でもできる。
しかし、授業の雰囲気は悪くなる。一生懸命に勉強している子にとっては、教師の怒鳴り声は迷惑以外の何ものでもない。このような場面では、笑顔で「〇〇さん、式を書きます。」とその子の目を見つめながら穏やかに言えばよい。ただし、目が重要である。笑顔だけれども、目は笑っていないのである。芸能の世界では、「名役者は口ではなく目で語る」といわれているが、これは教師の世界でも同じである。
笑顔一つとっても、「目」「声のトーン」「口調」「口元」など、それぞれのパーツの組み合わせで幾通りもの表情を使い分けることができる。
昔から教師は五者たれと言われてきた。学者、医者、易者、そして役者と芸者である。
場面に応じて表情を豊かに使い分けることは高段の芸ではあるが、この力を身に付けることができれば授業が活性化することは間違いない。

1 本指標が重要な訳
第一声がはっきりと聞き取れたとき、子ども達は授業に集中することができる。逆に第一声が、はっきりと聞き取れなかったときは、「何と言われているのだろう。」と考えてしまう。教師の第一声とは、これほど重要なものである。
自分の授業をテープに録ってみる。「語尾が聞き取れない。」「早口で分からない。」「声ばかり大きい。」何度も聞いているとなぜ子どもが集中しないのか見えてくる。
例えば、教室がざわざわしているのは、授業がつまらないからである。何を言っているのか分からない授業を最初は、我慢して聞いていた子どもたちも一ヶ月、二ヶ月とたつうちに我慢できなくなり騒ぎ出す。
教師が「熱心に説明している」つもりでも、聞いている子どもにとっては、「意味の分からない」ことを「長々としゃべっている」としか受け取らない。
子ども達が分かりやすいのは、明るく短い言葉ではっきりと話す教師だ。
だからこそ、「教室全体に通る声はどのように出せばいいのか」「語尾がきちんと聞こえているか」ということを学び、検討しておかなければならない。適切な声の大きさとトーンは、授業力向上のために重要な指標である。

2 各1点配点の理由
本指標は以下の3つの下位項目でなっている。
①教室全体に通る声で授業をしている。(1点)
②穏やかで温かい声のトーンで授業をしている。(1点)
③語尾の一語まで明晰に発音している。(1点)
下位項目の得点は、すべて1点である。「教室全体に通る声」がないと1番後ろの子まで集中して授業を受けることができない。①をクリアしないと次には、進めない。
次に、「穏やかで温かい声のトーンで授業をしている。」である。子どもに対して命令口調ではいけない。
子ども達を包み込むような優しい言葉を発する教師の授業は安心して受けることができる。最後は、「語尾の一語まで明晰に発音している。」である。作業指示を語尾まではっきりと言えるように配点している。
教師は、話すことが仕事である。基本的な内容を分かりやすく配点している。この指標を自分のものにすれば、様々な場面で声を意識することになるので、安定した授業力を身につけることができる。

1 教室全体に通る声の内容
教師全体に通る声とは、単に大きな声で怒鳴ればいいというものではない。子ども達への目線も声につながる重要な要素である。
子ども達を叱責する声は、隣の教室まで聞こえることもある。子どもが騒ぐ声に負けないように、さらに大きな声で話すと、教室はいっそううるさくなる。
全体に通る声とは、誰に対して、どこに向かって話しているか意識することが大事である。一人一人への目線がしっかりしていれば、教師の声は、教室全体に通っているはずである。言葉を削り、分かりやすい発問がしっかりと子ども達の耳に届けば、授業は安定してくる。

2 教室全体に通る声を出す身に付け方
教室全体に通る声を身につけるのは、自分の声を録音する。教室の後ろで録音をして、最後まではっきりと聞こえるのか確認する。こうした地道な訓練をしていくことで自分の声の課題が見えてくる。
発問・指示は、ゆっくりと1回だけする。自分の声を聞きながら、教室の後ろに届く声の大きさでしていく。その時に大声を張り上げないように練習する。教室の一人一人の顔を思い浮かべながら、練習していくのである。
目線も鍛える。目線が安定しないと、声が子ども達を通り越してしまったり、手前で落ちてしまったりする。
全体を見通して、一人一人の目を見て話すようにしていくのである。一瞬でも目が合うと、子ども達は大声で話さなくても聞くようになっていく。
感情やイメージがないまま、大きな声を出そうとすると声はかれやすいという。そこに感情が伴うと体が準備をする。子ども達をイメージして、練習することが大切である。
また、腹筋を鍛えることも大切である。次のように鍛える方法がある。

① 余計な力を抜いて、腹式呼吸を意識する。
② 母音のロングトーンを行う。
③ 母音を一息で言う。

声の大きさ、目線を意識して、練習していく。自分で聞くだけでなく、同僚などにもアドバイスをもらうといい。継続して取り組めたときに、教師の言葉が全体に通るようになり、教室は安定していく。

1 穏やかで温かい声のトーンの内容
この項目を評定してもらうには、先の「①教室全体に通る声で授業をしている。」をクリアーしなければならない。したがって、この項目で評定される声は、穏やかさと声のトーンが課題となる。
技量の高い教師の口調は共通して穏やかである。穏やかさとは、子ども達が聞いていて安定する声である。
話す速度も穏やかさに関係してくる。例えば、話す速度が1分間に720文字を超えると早口で聞きづらいと言われている。子どもとの目線に気をつけながら、ゆったりと話せると穏やかに聞こえてくる。
また、言葉遣いも穏やかさにつながってくる。暖かみのある言葉遣いになっていると穏やかに聞こえる。
トーンが高いと相手を疲れさせる。ヒステリックに聞こえてくる。低音の方が落ち着いて聞きやすく、信頼感がある。低い声を鍛えていく必要がある。

2 穏やかで温かい声のトーンの身に付け方。
声を鍛えるには、自分の声を何度も録音したり録画したりし、聞いてみることだ。簡単なのは、机にボイスレコーダーをセットし、自分の声を確かめていく。すると自分で話している印象とかなり違う。
また、早口になっていないか、子どもだけでなく同僚などに聞いてもらうと良い。ゆったりと話せるように間に気をつける。発問・指示をゆっくりと練習をする。
この間の取り方は、授業がうまいと言われる教師の声を何度も聞いてみるといい。そうした中から自分の型が身についてくるものである。
さらに、言葉遣いは、丁寧な方がいい。実力のある教師の言葉遣いは丁寧である。そして、謙虚な方が多い。何度も何度も録音した声を聞いてみることで、自分の声の課題を見つけていくのだ。
教師は、最たる言語環境と言われる。自分自身の1番尊敬できる方が後ろに立っていても、恥ずかしくない言葉遣いで話す意識を持つと良い。
教師の声とトーンは、なかなか言葉では伝えられない。向山洋一氏のライブを体験した教師は、みんな「向山先生の言い方は、包み込むように優しい。」という。こうしたライブ体験で声のトーンをイメージし、繰り返し聞くことでこの項目内容を身につけていくことができる。

1.語尾の一語まで明晰に発音することの内容
下位項目③の評定をされるということは、「①教室全体に通る声で授業をしている。」の1点、「②穏やかで温かい声のトーンで授業をしている。」の1点を合わせて2点を獲得した上で、この下位項目③の「語尾の一語まで明晰に発音している。」が評定される。
伝わらない指示は、子どもを変化させない。指示の言葉の語尾が消えてしまう人がいる。日本語は、最後の言葉で意味が変わる。子どもに伝えたつもりが伝わっていないのだ。
子ども達は、「聞こえない指示、分からない指示」での活動意欲をなくしていく。語尾まで明晰に発音しているのかどうかは、自分の指示が全員に届いているか目で確認すればいい。明晰に発音していれば、全員が動いているはずである。
教師の言葉が、「否応なしに耳にとびこんでくる。一瞬で何を言っているのか、何をすればいいのかわかる」ことが必要なのである。
だから、語尾は何度言っても同じならなければならない。言葉が異なるというのは、別の問題を出していることになる。語尾の一語までこだわり、明晰に発音することは重要なのである。

2.語尾の一語まで明晰に発音することの身に付け方
言葉の語尾まで意識することを心がける。
例えば、「○をもらったら、次の問題をやります。終わったら先生の所に持ってきなさい。」と次々と指示を出す。
すると、語尾が消えてしまうことがある。早口で話す時にも起こる。これは、自分よりも力量のある教師に見てもらう場に積極的に参加することだ。模擬授業で自分の弱点を指摘してもらうのだ。
そして、何度も自分の声を録音して調べていくしかない。自分の授業を録音すると、出だしが大きく、語尾が消えてしまうことがある。これでは、相手には話しが伝わらない。弱い印象を与えてしまう。
録音を聞いて、語尾が濁らないように何度も発問・指示を繰り返し練習することが大切である。自分の発問を言ってみる。語尾がはっきりとするように頭に入れる。発問を何度も言い換えて、繰り返すほど違ってくるものは駄目である。いつも同じだから、安定していく。
これらのすべてをこなして、この指標は満点となる。
教師は話す職業である。自分の話し方が安定すれば、授業も安定していく。何度も自分の言葉を聞いて改善していく。

本指標がなぜ重要か
子どもがざわついている。学習と関係のないことをしている。
そんな時に授業者は何をしているのか。確認すると、次のような状況にあることが多い。例えば、教科書に目線を落としながら説明をしている。黒板に背を向けて話をしている。目線が宙に浮いている、などである。
教師の目線が子どもに向けられていないと、授業の緊張感が途切れる。学習に集中しない子どもが多くなる。一方、目線を子どもと合わせるだけで授業に緊張感が生まれ、学習に集中できる子どもが多くなる。このことは、多くの教師が経験則で理解している。
「子どもへの目線(子どもと目が合う)」には二つの意味がある。
(1)子どもが指示通りに動いているかを確認する。
教科書を開けるように指示をした後、まだ開いていない子どもがいるにもかかわらず、次の活動に移ってしまう授業がある。子どもに目線を送らず、全体の確認ができていないために起きる事態である。そのまま放置すれば、教師の指示を聞かなくていいということを子どもに誤学習させることにつながる。この状態が続くことで教師の指示が通らなくなる。
そうならないためにも子どもに目線を送ることは重要である。
何か指示を出した後には必ず子ども一人ひとりを見るようにする。指示通りに動いていない子どもや、困っている子ども、動きが遅い子どもを見て取ることができれば、個別に対応できるのである。
(2)子どもが授業に集中できるようにする。
授業中のおしゃべりで悩む教師は多い。その原因はいくつか考えられるが、一つはやはり子どもへの目線である。
目線が下に落ちていたり、黒板に向かっていたりすると、子ども達に緊張感がなくなる。それが余計なおしゃべりを生むことになってしまう。時に手紙が回ったり、紙飛行機が飛んだりすることもある。
子どもに目線が向いているかを常に確認しながら授業をすることが重要である。例えば板書をする際も、半身になって目線を子どもに向けながら板書をするとよい。音読も同じである。教科書に目線を落とすのではなく、子どもを見ながら読む必要がある。

1 本指標がなぜ重要か
子どもに目線を送っているつもりだが、子どもは見られていると感じていない授業がある。これは、教師が子どもと目を合わせていないから起こることである。
数秒で良いので一人ひとりと目を合わせることで、子ども達は「先生に見られている」と感じる。それが授業に緊張感を生むのである。

2 本指標の解説
話をする時に、子どもの方を向いていても、目線が宙に浮いていて、全く子ども達を見ていない教師がいる。そのような場合、子どもは話を聞いているようで聞いていない。
教師が一人ひとりと目線を合わせることで、子どもは自分が見られているという意識を持つ。その結果として、話をしっかりと聞くようになる。
なお、一人ひとりと目を合わせると言っても、長時間目を合わせる必要はない。一人1、2秒で十分である。子どもが見られていると感じればいいのだ。そのときも、大げさに首や顔を動かしキョロキョロする必要はない。目だけをゆったりと動かすようにすると良い。
目線を合わせることで子どもに安心感を与えることもできる。問題を解き終わった後、ふと顔をあげた時、目が合った教師がにっこりと笑ってくれたら、子どもはうれしい気分になる。見られていることで安心して授業に取り組むことができるのである。

3 本指標の伸ばし方
子どもへの目線を伸ばす方法として、山口県の小学校教師である河田孝文氏は以下の三つをあげている。
(1)「一番後ろの右端と左端の人を見る」練習をする。
(2)一人一人の子どもの目を見る練習をする。
(3)こちらを向いていない子を見つける練習をする。
『授業の原理原則トークライン』No55(向山洋一教育実践原理原則研究会)p39
「一番後ろの右端と左端の人を見る」ことは、意識しないとできない。意図的に見ようとしなければ、中央や前方の生徒ばかり見てしまうのが通常である。見るようにトレーニングすることで見えるようになるのである。また、左端と右端のどちらかに苦手な方向がある教師も多い。苦手な方向をより強く意識してみる練習も必要だ。
教師の方を向かない子どもを見つけることも、意図的に行いたい。授業中に手遊びをしていたり、音読で口だけを動かしていたりする子どもを見落としてしまうことがある。目線を鍛えていけば、そのような見落としを防ぎ、全員をこちらに集中させられるようになる。

1 本指標がなぜ必要か
教科書を範読する時に、いつ子ども達を見るのかが重要である。最初から最後まで教科書に目線が落ちていると、子どもに緊張感がなくなり、次第に範読を聞かなくなる。
誰が聞いていて、誰が聞いていないのかを確認するためにも、範読の際はなるべく顔を上げ、子どもの状況を見取ることが大切である。

2 本指標の解説
例えば国語の授業で範読をするとき、教科書本文の内容を覚えていれば、常に目線を子どもに向けることができる。全文を暗記することは難しくとも、事前にすらすら読めるように練習しておき、教室では子どもを見るように意識して範読を行う必要がある。
また、範読時だけでなく、子どもが音読をする時も目線が重要である。子どもに音読させながら、教師が手元の教科書を見ていることがあるが、それでは読んでいる子どもと読んでいない子どもの確認ができない。子どもに読ませる際には、教師は顔を上げ、一人ひとりに目線と飛ばして子どもの活動状況を把握することが大切である。
子ども達の活動をチェックし、やっていない子がいたら近づいていくことで圧をかける。注意叱責に頼らずとも誰もさぼらなくなる。教室に緊張感が生まれる。

3 本指標の伸ばし方・練習方法
範読の時にも目線を子どもに向けるために効果的な方法は、「本文を覚えてしまうこと」だ。本文を覚えていれば、常に目線を子ども達に向けることができる。長文の物語は難しくとも、短い俳句や短歌、詩歌などは教師が暗記した状態で範読を行うと良いだろう。
また、模擬授業を行うことも効果的だ。範読をしている時、音読をしている時、教師に見られていると感じるか。子役にチェックしてもらうのが良い。
教科書を音読させるだけでも技術が必要だ。音読させる際、最初は、次の文が気になってしまい、中々顔を上げることができない。こちらの動きがぎこちないため授業のリズムとテンポが崩れ、子ども達がやりにくそうな顔をすることもある。
だが、何度かこなしていくうちに、目線が子どもに向くようになる。目が合う瞬間が日に日に増えていけば、トレーニングの意欲も高まることだろう。時には目を合わせる子どもを決めて授業をしても良い。
子どもの目、口元、手元。この三つに温かな目線を行き届かせたいものだ。

1 本指標はなぜ重要か
弛緩した授業がある。熱心に教えているのに、子どもがだらけているのだ。
原因の一つは、子ども達が「自分は見られていない」と感じ、緊張感がなくなっていることだ。無論、長々とした説明や偏った個別対応はご法度であるが、それらをしていなくとも、目線が行き届いていないだけで、教室の雰囲気はだらける。
一人の子どもが発言する場面で、教師がその子だけを見ていると、話を聞いている子どもと聞いていない子どもを見分けることができない。ゆえに指導もできない。
全体に説明する時、個別に対応する時、そして子どもが発言している時。いかなる時にも全体に目線を向け、一人ひとりと目を合わせることが重要なのだ。

2 本指標の解説
授業中、個別対応が必要になることがある。たとえば算数の問題演習や国語の作文指導である。しかし、一人にだけ長く対応していると、他の子どもがだらけてしまう。
個別対応中も、個に話をしつつ、全体を見る必要がある。また、全体が見える位置で個別指導をすることも大切である。たとえば教室前方隅の教卓で指導をすれば、全体に体を顔に向けることができるだろう。
また、子どもが発言している時の教師の目線も大切だ。発言をしている子どもばかり見てしまいがちだが、そうすると、他の子どもの緊張感が薄れてしまう。発言をしている子と目線を合わせつつ、全体に目を向ける必要がある。目線を鍛えれば、余分な注意𠮟責が不要になる。

3 本指標の伸ばし方・練習方法
まずは全体を見る練習をする必要がある。全員と目線を合わせるための基本的スキルとしては、目線の動かし方を練習する必要がある。大きく次の2つである。

①Z型
②N型

教室を、Z(N)を描くように見ていくことで、目線が鍛えられる。
この二つの目線を練習し、まずは全体を見られるようにすると良い。
その後、立ち位置を変えずに、目線を全体に向ける練習をする。教室の真ん中に立つと、自分の背中にいる子どもは見ることができなくなる。教室の前に立つのが基本だ。
子どもにノートを持ってこさせる際にも、ノートを持ってきた子ども本人を見つつ、全体にも目線を飛ばせるようにすると、問題に取り組んでいない子が誰なのか分かり、言葉をかけられるようになる。目線で制し、目線で励ませる教師は、実力が高い。

なぜ「適切な立ち位置」が重要か
(1)適切な立ち位置がある
授業において、教師は基本的に子どもたちの前に立つことになる。教師が席につきながら授業を進める、ということはほとんどないだろう。
立ち位置についても、当然ながら適切な場所がある。わざわざ子どもたちの後ろに回って重要な指示を出すことはない。子どもたちの顔が見える位置に立つのが原則である。
しかし、学級には多くの子どもがいる。「子どもたちの顔が見える位置」とはどこなのか。
試しに、列の先頭の座席の前に立って教室を見渡してほしい。すると、全員の子どもの姿を一度で視界に入れることの難しさに気が付くだろう。両端の席の子どもの姿が、視界から外れがちになってしまうのだ。立つ位置を後ろに下げたり、横に移動したりすると、全員を見ることができるようになる。
「子どもたちの顔が見える位置」このたった一点も、無意識に立っていては気づかない。
(2)立ち位置による変化
立ち位置を適切な位置に変えることで何が変わるのだろうか。
変わるものの一つに、教師の得られる情報の質・量がある。
例えば、子どもの顔が見える位置に立つと、「今、子どもがどこを見ているか」がわかる。
教師と目が合う子どもは、話を集中して聞いているといえるだろう。ぼんやりと宙を見つめている子どもは話を聞き逃してしまっているかもしれない。子どもの状態を把握することで、指導を工夫することができる。
また、立ち位置は、当然一か所ではない。教授活動によって変化する。
例えば、資料を提示するときには、子ども全員がそれを見られる位置に移動する。子どもたちに作業をさせる時には、子どもの間に入っていき、声をかけ、必要な指導をする。
教師は、教授行為によって意図的に立ち位置を変えるのである。

①本項目の重要性
教師の立ち位置を決める基準となるのが教卓である。黒板の前に置かれることが多く、教材教具も置くことができるため、そこが基本的な立ち位置となりやすい。
しかし、教卓から一歩も動かないと、子どもたち一人ひとりの詳しい状況をつかむことが難しくなる。子どもの顔を見ることはできても、ノートに何を書いているのかを把握することはできないだろう。
一方で、あちらこちらへと動き回っていると、見ていてせわしない。子どもたちも落ち着いて学習に取り組むことができなくなる。基本的にはある一点に立ちつつ、必要に応じて動いていく必要がある。

②本項目の解説
本項目で留意すべきは、「動きすぎないこと」である。
授業において活動をするのは子どもである。教師の役割は活動の指示を出し、活動状況を見取り、指導や評価をすることである。
子どもの活動状況を見取る際には、近づくために動くことも必要だ。しかし、指示を出す際に教師が動いていたら、その動きが気になって話に集中できない子どもが出てくるだろう。
作業をさせているときも、教師がせわしなく動いていたら子どもは集中できない。
教師は、「静」と「動」を上手に切り替えながら授業を進めていく必要がある。
授業中、教師には考えなければいけないことがたくさんある。子どもの学習状況を観察しつつ、個別対応や効果的な展開を考えながら授業をしていると、どうしても「静」と「動」の切り替えがなおざりになりがちである。
意図的に静と動を使い分けられているかどうか。本項目を指標としてチェックしてほしい。

③練習方法
動きすぎてしまう場合は、教室の床に立ち位置の印を書き、そこを基本位置とする。指示や発問はその位置から言うようにして、不用意に動かないよう意識しながら授業を展開するとよい。
教卓から離れられない場合には、どの発問や作業指示の後に、どのような動きをするのかまで計画を練っておく必要がある。
どちらの場合でも、授業中の自分の立ち位置についてビデオで記録したり、人に見てもらったりして、自分の動きを客観的に振り返る機会を持つとよい。

① 本項目の重要性
大切な発問とは、その授業の目標を実現するために必要な思考及び活動を生み出す発問である。主発問とも言われ、授業に欠かせないものである。
教室には様々な子どもがいる。発達障害の子どももいれば境界知能の子どももいる。そのような子どもたちにとって、余分な情報は集中の妨げになってしまう。
教師の動きも余分な情報となり得る。教師の必要以上の動きは子どもの思考を混乱させる。
ゆえに、全員にしっかり聞かせたい大切な発問の際には、教師は体の動きを止め、子どもに正対してから発問することが大切である。
全員と目を合わせられる位置に立つ。手に持っているものを置かせ、こちらを向かせる。
全員ができたことを確認して、初めて発問をする。
大切な発問をする際には、このように場を整えてから伝える配慮が必要である。

②本項目の解説
本項目において気を付けたい点は2点である。
(ⅰ)動きを止めているかどうか。
歩きながら発問しては、その教師の動きに気が散ってしまい、正確に聞き取れない子どもが出てくる。
発問をする瞬間に止まっていればよいという話ではない。発問する少し前から、全体が見える場所へ向かう必要がある。教室の端で個別指導をしてから、急に発問をすることになっても、戻るのに時間がかかってしまう。せっかくの授業の流れが崩れてしまうことになる。発問までの流れを計算して、意図的に動く必要があるだろう。
(ⅱ)子どもの方をしっかりと向いているか。
体を止めて、子どもたち一人ひとりを見るには、全体を見渡せる位置に立つ必要がある。
立ち位置とともに、身体の向きにも意識したい。

②練習方法
ビデオで授業の様子を撮影し、客観的に振り返る方法はとても効果的である。今日の立ち位置を分析することで、明日の授業に生かすことができる。最初は意識的に立ち位置を決める必要があるが、続けていくと、自然とできるようになる。
また、教室内のどの位置から発問をするのが適切か、あらかじめ想定しておくとよい。それぞれの立ち位置で、死角になりやすい場所はどこかといったことも頭に入れておくとよいだろう。

①本項目の重要性
集中が切れていた子どもも、目線を合わせるだけで背筋を伸ばすことがある。
一言も発しなくても、手振り身振りだけで伝わることがある。
ふざけていた子どもも、教師が近づくだけでおとなしくなることがある。
教師の立ち振る舞いは、子どもに様々な影響を与えるものである。
教師は集団を動かしつつ一人ひとりの状況を把握する。必要に応じて立ち位置を変えるのは、そのためである。集中が切れているなと感じれば、立ち位置を変え、その子どもに近づく。すると緊張感が生まれ、集中力が戻ることもある。手が止まっている子どもがいれば、近づいていって支援をすることもできる。動と静の使い分け。身につけておきたいスキルである。

① 本項目の解説
本項目では、子どもたちに近づくという、小さな行為を取り上げて指標としている。近づくという行為一つをとっても意図的に行うべきなのである。
では、どのような場面で子どもたちに近づくのか。
例えば、子どもの集中が切れているときである。個人への対応だけでなく、「窓際の席が落ち着かないな」というような、ある範囲に対しての対応も考えられる。
また、誰かが発表する時には、発表者から離れた位置にいる子どもへと近づいていくとよい。発表する側より聞く側の方が集中を切らしやすい。離れた位置に移動することで、傍観者をなくすことができ、また、聞き方の指導もできる。
ただし、子どもに近づいた分だけ、教師の視野は狭くなる。気になる子どもの近くにばかりいては、全体の様子を把握できない。全体を見渡せる場所を基本の立ち位置とし、あとは臨機応変に近づき、離れる。そのような使い分けを行えるようになることが大切である。

② 練習方法
上記項目を伸ばすには、模擬授業をするのが一番効果的である。教師に子役になってもらい、授業を行う。授業後にコメントをもらうと、教師の捉え方と子どもの感じ方が異なることに気づくことが多々ある。その経験の一つひとつが勉強である。
子役は、「授業者に見られている感じがするかどうか」を気にしながら授業を受けることが大切だ。端の席や後方の席に座っている子(子役)にも目線を送ることができる立ち位置をとれているか。子どもの視点で確認してやりたい。
また、特定の子どものところにばかり近づきすぎていると、他の子(子役)は「先生に見られていない」「相手にされていない」と感じるようになる。自分の感じたことを率直に伝え、改善案を共に考えるとよい。
共に修業する仲間を持ち、腕を磨き合っていこう。

本指標がなぜ重要か
(1)動線によって授業が変わる
授業時、教師がどのように動くか。重要なテーマのひとつである。子どもの理解度の把握やその後の授業の組み立ては、教師の動線によって変わる。適切に動くことができれば、子ども一人ひとりに目を向け、それぞれが授業内容をどの程度理解しているのか、どのような考えを書いているのかなどを詳しく把握することができる。
一方、教師の動き方に偏りがあると、一部の子どもにしか目が行き届かず、考えの把握はもちろんのこと、適切な支援を行うこともできなくなる。
子どもの理解度を把握できていれば、その後の授業の進め方も変わる。誤っている子どもがいることが分かれば、補助の説明を入れたり、演習問題を増やしたりするなどして解決の支援ができる。子どもの状況を把握せずにいれば、理解できていない子を置いてけぼりにして先に進むことにならざるを得ない。
教師の動線は、目線・立ち位置と同様に、大切なスキルなのである。
(2)プロの教師は机間指導で多くを見取る
プロの教師は、全体に目が届くような机間指導を行っている。
例えば向山洋一氏は、算数の授業を参観した際、授業者に対し、計算を間違えていた子どもが何人いたか、その間違いはそれぞれどのようなものであったかを問うている。そして、実際に人数や誤答内容などを具体的に説明している。
同じ時間を過ごしていても、プロの教師は子ども全体に目線が行き届き、一人ひとりの個別状況を把握することができている。
それは、教師が、意図的計画的に机間指導を行い、一人ひとりの学習状況を正確に把握しているからである。常に全体を見ることができる動線を考え、意図的に動く必要がある。

1.本指標がなぜ重要か
動線を考える際には、教室設計が欠かせない。教室のどこに何が配置してあるかによって、子ども・教師の動きが変わるからだ。例えば、子どもがよく使うものはどこに配置するのがよいのか。動くときに邪魔になるものはないか。よく声をかける子どもの座席はどこに配置するのがよいかなど、すべて意図的に組み立てることで、授業中の動線にロジックが生まれる。

2.本指標の解説
(1)教室整備
教師や子どもが動きやすい教室環境が必要である。
机の横に大きな荷物がかけてあったり、床にものが置かれたりしている状態では、教師や子どもが動く際の邪魔になる。かばんや大きな荷物はロッカーにしまわせるなどの指導が必要である。
また、忘れ物をした際に貸し出す文具の置き場所、辞書の置き場所等も動線の邪魔にならないように工夫するとよい。授業中にものを借りに来る子どもとノートを出しに来る子どもがぶつからないように、教師の基本的な立ち位置とは反対の場所に置き場所を作っておくとよい。
(2)座席の配慮
気になる子ども(学力が低い子ども、行動面や人間関係面で課題のある子ども)の座席をどこかに置くかにより、教師の動き方も変わる。彼らの座席を前の方にしておくと、教師の目線が行き届くと同時に、その子の様子を見る際に大きく動かずに済む。教師が必要以上に動き回ると無駄な時間が生まれ、子ども達も気が散って集中力が途切れることから、教師の動きは必要最低限で済むように、座席にも配慮するとよいだろう。

3.本指標の伸ばし方・練習方法
(1)教室を設計する
ものの配置や子どもの座席を考え、実際の授業における動きをイメージして教室を設計するとよい。「なぜそれをそこに置くのか」という理由を一つひとつ説明できるくらい、吟味して教室を設計するとよい。
(2)教室の写真を撮り、他の人に見てもらう
一つひとつのものの配置や、教室全体の様子を写真・ビデオに撮り、他の人に見てもらうのも効果的である。自分で気づかない視点で教室を観察し、質問やアドバイスをもらえることもある。

1.本指標がなぜ重要か
授業中の机間指導にもロジックがある。ただ思いつきで動き、なんとなく見ているだけでは“机間指導”ではなく“机間散歩”になってしまう。意図的に動き、その中で個別指導を行い、子どもの理解状況を把握すべきである。
また、いつも同じ子どものところへ行くのも良いことではない。子どもは、教師の動きをよく見ている。「いつも先生は〇〇くんのところへ行く」と子どもが気づくと、「〇〇くんは勉強が分からないから、先生は〇〇くんに教えているんだな」と思う子どもも出てくる。教室内を公平に巡りつつ、個々に声をかけながら、さりげなく個別指導を行うことが必要だ。そのためのロジックがあり、意図的な動線につながるのである。

2.本指標の解説
(1)個別指導の必要な子どもへの配慮
個別指導をしたい子どもがいたとして、その子のところに直接行くのは良いことではない。全体をまわりながら、さりげなくその子のところに行くと、他の子どもにも気づかれにくい。
このときのポイントは次だ。

その子の後ろから行き、個別指導をすること。

前から声をかけると目立ってしまう。後ろから、さりげなく指導をし(ノートに薄く途中式などを赤鉛筆で書いてあげる「赤鉛筆指導」が有効である)、短時間で離れるとよい。
(2)全体を見ることができる周り方
机間指導をする際には、全体へ目を配り、理解状況、作業の進捗状況を把握する必要がある。周り方を意識せずになんとなく動いていると、一部の子どものみを見て、他の子どもへは全く目が届かないという状況が生じる。全体を見ることができる周り方を数パターン持ち、状況に応じて使い分けることができるとよい。

3.本指標の伸ばし方・練習方法

授業をビデオに撮り、動線を座席表に書き込むこと。

教師がどのように動いているのかを正確に把握するためには、実際に授業中に動いた線を座席表に書き込んでいくとよい。線が何度も重なっているところはどこか、反対に、線がほとんどないところはどこかが明確になる。
次回の授業では、線が引かれないところを意識的に見るようにするなど、具体的な改善方法も明確になる。

1.本指標がなぜ重要か
動線は、教師の話だけではない。授業中に子どもが動く際に、どのように動くのかが決まっていると、子どもの動きもがスムーズになる。動線が決まっておらず、バラバラに子どもが動くと、授業の緊張感が途切れ、教室が騒がしくなる。集中力も低下し、授業内容の理解度も下がる。子どもの動線もルールとして決めておくと、無駄がないゆえ教室の雰囲気が引き締まり、緊張感の保たれた授業になるのである。

2.本指標の解説
(1)一方通行にする
子どもの動線のポイントは次だ。

動線が交わらないようにすること。

例えば算数の時間に問題が解けた子どもからノートを持ってくるときには、一方通行にして、子ども同士がぶつからないようにするとよい。子ども同士がぶつかると、動きがスムーズでなくなるだけでなく、おしゃべりやケンカが始まるからだ。
右図のように、教師の立ち位置を決め、子どもにも持ってくるときの道を指示しておけば、通路で子ども同士がぶつかることがない。
(2)椅子を入れさせる
子どもがノートを持ってくるときには、椅子を入れるように指導をする。これは、他の子どもが動くときに椅子が出ていると邪魔になるからだ。躾としても、必ず指導をすべきことである。

3.本指標の伸ばし方・練習方法
子どもを動かすために、指示の出し方、説明の仕方を練習するとよい。図示する、説明を短くする、実際に教師が動いてみせるなど、様々な方法が考えられる。一回教えただけでは子どもは動けないので、子どもが動けるようになるまで繰り返し指導をすることが必要である。

授業におけるリズムとテンポのある心地よいスピード感が,子どもたちの集中力を高める。
NPO TOSS代表の向山洋一氏は次のように述べている。

授業は,リズム・テンポが生命だ。(向山洋一氏『教室ツーウェイ』No178明治図書)

玉川大学教職大学院教授の谷和樹氏は,次のような工夫を行うことで心地よいスピード感が生まれる,と述べている。

1変化のある繰り返し(説明せずに短時間で授業の中心に入る)
2待たない(待たないから子どもは時間を意識して追いつくようになる)
3局面の限定(指導場面を限定することで子どもが集中して思考する)
4活動を重ねる(空白の時間を作らない)
5流れるように(リズム)
6区切れよく(テンポ)
7適切な「作業指示」があること。
8「前置き」をしない。
9「作業させたら「確認」し,個別に評定し,そして褒めること。
10個人の作業,ペアやグループでの話し合いを組み合わせること。
11列指名を多く,挙手指名を少なくすること。
12子どもに板書をさせ,次々に発表させること。
(1~6 教育トークライン2015年9月 谷和樹氏論文 7~12玉川大学大学院ホームページ
http://www.tamagawa.jp/graduate/teaching_pro/column/detail_9627.html)

7の適切な「作業指示」とは,一方的にしゃべるのではなく,子どもが小刻みに作業をしながら考えることができるように学習活動を仕組むことである。
そのような工夫によって,心地よいリズムとテンポが生まれる。
8について,適当に授業を始めるのではなく,できるだけ開始の仕方を確定しようとしていたという。導入で余計な前置きをしないこと,言葉を削り,確定しておくこと,適切な「作業指示」をすること,等々が大切なようである。
また,9について,させっぱなしではなく,列指名をして書いたことを言わせてみる。
どんな意見も基本的には褒める。その上で,いい悪いを明確に言うようにする。
こうした工夫を毎時間することで,リズムとテンポが生まれるのではないかと谷氏は言う。

NPO TOSS代表向山洋一氏は次のように述べる。

たとえ一人の子どもでも空白の時間を作るな。
(新版 授業の腕を上げる法則 向山洋一著 学芸みらい教育新書 P38)

具体的な状況について,玉川大学教職大学院教授の谷氏は,次のようなことが起こると述べている。
例えば左側から右側の列に順にテキストを配布していく際など,先にもらった子はすることがないので,空気が緩み,授業がだれてしまう。
不要な空白の時間ができることにより,トラブルが発生することにつながる。
このようなことを防ぐためにも,空白の時間を作ってはならないという。
具体的にどうすればよいか。谷氏は次のように述べている。
「受け取った人は2ページ目を読みなさい」と作業指示を出しておいて,配布が終わったら全員で読ませるといった具合に,活動を重ねていく。
また,「遅い子を待たない」という原則もある。
例えば「答えをノートに書きなさい」と指示して,全員が書き終わるのを待たず,「書けた人,読んでください」「まだ書けてない人も今の意見を参考にして書いて」と活動を重ね,早い子を使いながら遅い子にも追いつかせる。
しかし,それでも対応が必要な子がいる場合,どうしたらよいのであろうか。
向山氏は次のように述べている。

授業中の個別指導は「完全にさせる」ではなく,「短く何回もさせる」ということを原則にせよ。
新版 授業の腕を上げる法則 向山洋一著 学芸みらい教育新書 P39

授業時間は何十名かの子どもを指導している。
どこでどのようなことが生じるか分からない。一人の子どもにずっと時間を取っているということは,全体の指導に取って大きくマイナスになることがある。(プラスになることも当然ある。)
授業中の個別指導は「短く何回も」というような形でやって,「どんなことをしても完全に」というのは,特別の時間を作って指導するときにまわした方がいい。
ただし,極めて大切なポイントとして,他の子どもたちにも波及効果があるときは,この限りではない。

授業の上手な教師は、例外なく一人一人の子どもの活動に空白が生まれないように手立てを打って授業を組み立てている。なぜだろう。
TOSS代表の向山洋一氏は、次のように述べる。
子どもの一人一人を机によんで指導するときがある。指導されるとよくわかり、すぐに課題が終えてしまうことがある。終わったから、何をしようかと思うと、何もすることがない。
教師の方はというと、次々に押しよせる子どもに個別指導をするのでテンテコ舞である。
課題をやり終えた子どもが次々と生まれてくる。

その子たちは、はじめチョロチョロといたずらを始める。やがて大胆になり、そのうち教室は騒然となる。
引用「新版 授業の腕をあげる法則」向山洋一著

子ども達は「何をやっていいのか分からない」という状態になると、自然に手悪さや悪戯を始める。教師はそれを叱る。初めは静かになるが、次第に教室は騒然として収集がつかなくなってしまう。
子どもに空白を作らないためには、指示の原則があると向山氏は述べる。

まず、全体に大きな課題を与えよ。然る後に個別に指導せよ。~中略~
終わった後の発展課題は必ず用意しておく。
前掲書

しばしば、全体を後にして先に個別に対応している場合がある。
一見に親切に見える行為だが、実は不親切な行為であると言える。
分かっている子ども達は、教師が答えている間、何もやる事が無くなってしまう。空白がうまれてしまい、隣とお喋りや手悪さをはじめてしまう。
個別に対応されている分からない子ども達も、自分の番が来るまで空白の時間がうまれてしまい、お喋りや手悪さを始めてしまう。
全体が先で、然る後に個別に対応するということを心掛けなければならない。
教室の中には様々な子どもがいる。足の速い子、遅い子がいる。勉強の得意な子、苦手な子もいる。教師はそういった集団を相手に授業をしている。
進度のバラつきもうまれてくる。だからこそ教師は「はやく終わった子」が取り組む課題を用意しておく必要がある。
課題を用意した上で、教師が一人一人のチェックのスピードを上げる。
授業の中で列を作らない。あらかじめ黒板に取り組む項目を書いておく。
そうすることで、子どもにも教師にも空白が生まれずに、やるべきことが明確に示された形となる。
教師が原則を踏まえて手立てを打つことができれば、教室が騒然となることはない。

授業の中で、教師の指示が長ければ長いほど、子どもは作業に集中できなくなってしまう。
玉川大学教職大学院教授の谷和樹氏は、次の三点が作業に集中させる基本であると述べる。

1 教師の短い作業指示(通常15秒以内)
2 子どもの短い活動
3 教師の確認と評定
引用「『プロ教師が使いこなす指導技術』」谷和樹著

教師のやることは、指示を短く言って、短くやらせ、持って来させて「○×」をつけて評定する。この繰り返しで子どもは集中を保つ。
これらの流れをスムーズに行うためには、次のことが必要だと谷氏は述べる。

1 教える内容をできるだけ細分化する。
2 一時間に一回は全員のノートに○をつける。
3 作業が遅い子の時間差を埋めるための手だてをとる。
どうしても子どもに長く活動させなければならない場面もあるだろう。
その場合は少なくとも次の二つをハッキリさせる。
1 どこまでできたら教師のところに持っていくのか。
2 全部終わったら何をするのか。
「○番までできたら持って来なさい」という場合もあろうし、「ノートに○行書いたら持
ってきなさい」という場合もあろう。
上の二点をハッキリさせ、教師がきちんと評定してやるなら子どもたちの活動は集中す
る。
前掲書

よく見られるのが、作業指示を出している途中で「じゃあ先生○○はどうするんですか?」
いう子どもの質問に、その都度教師が答えているという場面である。
一見親切に見えるが、次々と質問が出て指示が通らなくなってしまう。
「質問は最後に聞きます。」「話は最後まで聞きます。」のようにきっぱりと言い切ることが必要である。
更に、子どもが活動している途中で指示の修正・追加はしない。
どうしても指示を追加する場合には、手に持っているものを置かせ、教師の方を向かせて集中して聞かせなければならない。
これは難しい。混乱する子どもが必ず出てくる。初めよりもっと明確に言い切ることが求められるだろう。場合によっては黒板に書く視覚支援が必要になるだろう。
上記のような基本的なことが抜けていることがある。
当然、教室は混乱する。これは子どもたちが悪いのではない。教師が悪いのである。

子どもを動かす方法として叱って動かす教師もいれば,ほめて動かす教師もいる。
NPO TOSS代表の向山洋一氏は次のように述べている。

ほめることによって子どもを動かせる教師は,技量の高い教師である。ダメな教師ほど,叱ることによって動かそうとし,子どもの名前を呼び捨てにする。
私が出会った教師の中で,私がすばらしいと思った教師は,例外なく,ほめることの上手な教師であった。(『新版 子供を動かす法則』 向山洋一著 学芸みらい社)

教師の対応次第で,子どもは伸びていくこともあり,反対にダメにしてしまうこともある。
叱って子どものやる気をそいでいく教師と,ほめてやる気を伸ばしていく教師と,どちらが良いかは歴然としている。
玉川大学教職大学院教授の谷和樹氏は,次のような例を挙げながら子どもへの対応を述べている。

教師が子どもたちをほめる言葉は何百通りも必要である。一人一人違う言葉で,しかも真実の言葉で,ほめることができるのが基本だ。
また,教師の笑顔はきわめて重要である。笑顔は練習しなければ決してできない。人に接する仕事であれば,どのようなプロでも,笑顔の練習をしている。
例えば,間違った答えを子どもが言ったとする。
最初から,間違いを指摘するのではなく,
「一番だ!速いね-。」
「おおー,なるほどっ。」
「すごい,よくこんな難しい熟語を知ってたね。さすがだな,びっくりした。」
「正解に近いよ。意味は関係がある。」
このようなことを子どもに声かけをするのである。それから,満面の笑顔でその子を見てこう伝える。
「でも,これじゃないんだよな。残念。」
周りの子は,当然このやりとりを聞いている。この先生はどのような対応をするのかを見ていて,信頼できる教師かどうか判断をするのである。
練習しなければ決してできない。笑顔と穏やかな対応が「大人のゆとり感」を生む。教師の「ゆとり」を子どもたちは見ているのだ。
(『みるみる子どもが変化するプロ教師が使いこなす指導技術』谷和樹著 学芸みらい社)

「褒める」ということについて向山洋一氏は,次のように述べている。

  優れた教師というのは,「優れた教育技術・方法」を身につけているとともに,「やる気」を起こさせる名人でもある。どんな状態の時に人が「やる気」になるかを考えるのは大切
なことだ。大人でも子どもでも人間そんなに違いあるわけではない。自分自身のことを振り返りながら考えてみればよいだろう。
子どもがやる気になるのは,いったいどんな時だろうか。第一に,「褒められた時」で
ある。人は,誰しも,褒められればうれしいものだ。その褒め方もひと通りではない。「正しい答えを出した子を褒める」などという単純なことではなく,しばしば答えを間違えた子を褒める。「それは,すごい発想だ」「誰にも考えられなかったことだ」というように褒めるのだ。つまり,「正しいか」「まちがいか」という尺度ではなく,「思想の範囲が広かった」という点で褒めるのである。
教室で「この写真を見て,何か気がついたことをいってごらんなさい」と言っても,すぐに手が上がらない時がある。子どもは「良い答え」を言おうとして迷っているのだ。
そんな時,ある子が「空がある」と言った。教室の子ども達は,ドッと笑った。どこでもある光景である。そんな時,私はもちろん「褒める」ことにしている。「クラスのみんなの手が上がらない時,君は答えたのだから偉い」と褒める。そして,常識にとらわれないことが大切だということの一例として,コロンブスの卵の話などもする。
このように,「褒める」方法はいろいろある。褒めることがない時でも,「昨日の君に比べれば,すごい進歩だ」と褒めることができる。他人と比較する必要はない。優れた教師は「褒め上手」なのだ。だから,子どもは「やる気」になるのだ。
(向山式「勉強のコツ」がよく分かる本 向山洋一著 PHP)

プロの語彙の豊富さをワインのソムリエの語彙と比較してみると良い。調べてみると,ワインの味を語る言葉は,数百以上もあるという。教師の褒め言葉の少なさが分かる。
褒めことばが,意識していなくても出てくるほどにならなければならない。そのためには,褒め言葉をノートに書き出し,何度も言って練習することが大切である。
特別支援の必要な子達の多くは,たくさんの挫折を経験していることが多い。挫折をたくさん経験するうちに,「やる気」がなくなっていく。
だからこそ,褒め言葉をシャワーのようにかけなければならない。褒め言葉の語彙を増やすという具体的な努力が必要である。

子ども達の発想は豊かである。
授業中にこちらが考えていないことを発言することがある。
例えば,玉川大学教授の谷和樹氏の飛び込み授業で次のような場面があった。

授業の冒頭。「狩猟・採集」のくらしから「牧畜・農耕」のくらしへと変化した大きなポイントを発問する場面。「食料を□□できるようになった。」□の中に入る言葉を子どもたちに聞いた。正解はむろん「保存」である。すると一人の男の子が,「先生,□の中は漢字ですか。ひらがなですか。」と質問した。いい質問だと褒め,漢字であることを教えた。その子は答えをノートに書きクラスの中で一番に持ってきた。ところが,その子のノートには「ほうふ」とひらがなで書いてあった。この解答は,間違っている。
次のように対応した。「一番だ!速いね。」「おぉ,なるほどっ。」「漢字二文字だからね。だから,この言葉にしたんだね?」「すごい。よくこんな難しい熟語を知っているね。さすがだな。びっくりした。」「正解に近いよ。意味は関係がある。」
このようなことを,その子に対して矢継ぎ早に言ったのである。それから,満面の笑顔でその子を見た。少し間をとった。「でもこれじゃないんだよ。残念。」(みるみる子どもが変化する『プロ教師が使いこなす指導技術』谷和樹著 学芸みらい社)

このように,「褒める」ことを基本としながら切り返すのである。谷氏は次のように述べている。

30人の子どもがいたら,30通りの褒め言葉が,その場で瞬時に出てくること。それが対応の基本だ。
前掲書

もちろん,こうした判断は瞬時のものである。一つ一つ考えていたら対応ができない。 そのために,自分が発する言葉を事前にノートに書いておくことが必要になる。褒め言葉やこう言われたら,こう対応する例をストックしておくことである。
ユーモアをもって返すことも必要である。そのためには,いろいろな対応の例を知っておく必要がある。そのためにも,優れた先生の授業の褒め言葉などをノートにストックしていくことが大切である。
瞬時に明るく対応するために必要なのが笑顔である。人に接する仕事であれば,どのような一流の人でも,笑顔の練習をしている。笑顔ができるようになって,はじめて予想外の発言をした子どもに明るく穏やかに「褒める」「切り返す」対応ができるのである。

子どもが不規則な発言・行動をするときには必ず何らかの理由がある。それを頭ごなしに叱るのではなく,その理由を明らかにし,対応方法をいくつも身に付けることが重要である。
授業中に子どもが不規則な発言・行動をしたとする。玉川大学教職大学院教授の谷和樹氏は,次のように対応すると述べている。

目線を送る。ジェスチャーだけで対応する。表情を変化させてみる。子どもの言葉を繰り返す。短い言葉で対応する。
このような数十種類の対応が,その場でできなければならない。
その対応が「受容的」であること。授業の中での教師の対応は子どもにとって,「受け入れてもらえた」というものでなければならない。
時には「そのようなことを言うものではありません」などと厳しい対応をすることもある。しかしそれはあくまで子どもとの信頼関係が前提にあっての上である。
(みるみる子どもが変化する『プロ教師が使いこなす指導技術』 谷和樹著 学芸みらい社 P151)

また,子どもによってはワーキングメモリが1つに集中し,一度に多くのことを理解できないことがある。「教科書25ページを開けて四角の三番をやりなさい」という指示を出すと,「先生、どこやるんですか?」と発言する子どもがいる。一度に3つの指示が出ているため,記憶ができないのである。「教科書を出す」「25ページを開ける」「四角の三番をする」という3つの指示が入っているのだ。「一時に一事」の指示をすることは大切だ。谷和樹氏はワーキングメモリに配慮した教師の対応として次のように述べる。

①指示を区切って短く話す。②一度にやらせる作業を一つずつにする。③単純な表現をする (みるみる子どもが変化する『プロ教師が使いこなす指導技術』 谷和樹著 学芸みらい社 P157)

そのために,自分が発する言葉を事前にノートに書いていくことで,言葉が確定し無駄な言葉を削ることができる。また,自分の授業の様子をビデオに撮って後で見ることも必要なことである。「あの時の説明が長かった」「一人の子どもに対応しすぎて,周りの子が学習できていなかった」などのことが客観的に見えてくる。このようなことを何度も行うことで,本指標の力が身に付いていくであろう。

授業が上手な教師は授業の開始時間と終了時間を守る。逆に,授業が下手な教師は,授業時間を守らず,授業をズルズルと休み時間まで続ける。
向山氏は,次のように述べている。

授業が下手な教師は,授業時間が守れない。ズルズルと休み時間まで続ける。子供がやる気をなくしているのに,ダラダラ続く。
(向山洋一全集85 自分の教室実践を向上せるプロの仕事流儀 明治図書 向山洋一著)

授業時間を延ばす教師は,授業時間をのばして学習をすることを,良いことをしているように錯覚している。授業をのばして学習する時,子どもは学習とは別のことを考えているのではないだろうか。

時間を守るためには,ムダな言葉,ムダな行為を削りに削る必要があるのである。
上掲書

したがって,授業が上手な教師が,授業時間を遵守できることには,二つの理由がある。
一つ目が,一時間一時間の授業の組み立てが優れているということだ。一時間の授業を組み立てるには,授業の展開を考えたり,授業をパーツで分けて組み合わせたりする必要がある。
そのためには,優れた実践から授業の組み立てを学んでいたり,授業の型を知っていたりしなければならない。毎日,その場の思い付きで授業をしていたのでは,優れた1時間の授業の組み立てはできない。
二つ目が,リズム・テンポがよい授業ができるからである。リズムとは,教えることに強弱があることである。テンポとは,授業の速さである。授業時間を守ろうと決意するからこそ,リズム・テンポのある授業にするべく工夫が生まれてくる。
授業時間をのばさないためには,決意が必要である。そして,授業時間を延ばさない教師は,子どもの心を理解している。授業時間を延ばさない教師は,毎時間工夫している。

だから,授業時間をのばさない教師は,決断力があり,子どもの心を理解しており,ムダがなく,リズムとテンポのある組み立ての授業をして,工夫がある授業を心がけている。
上掲書

本項目では,時間通りに授業が終わること,開始時刻と同時に授業が始まること, 予定の授業進度を守ることができることについて具体的に解説していく。

授業が上手な人は,授業のリズムが良い。授業が心地よく流れていく。授業を受けていて,自然に引き込まれていき,いつのまにか子ども達は熱中している。

リズムが良い授業をするためには「終了時刻」を守らなければならない。
(授業が上手になる“たった一つの条件” (教え方のプロ・向山洋一全集 76)明治図書)

プロの先生であるならば,授業時間の延長はあってはならない。終了時刻を守ろうとするから「工夫」が必要となる。教える内容が明快になる。時間が延びる授業では工夫も生まれてこない。授業時間のオーバーは,授業の組み立て,すすめ方などにいろいろな問題があるために,結果として予定時間に収まらないのである。
授業というのは45分でやろうとすれば,余分なことを省き,大切なことだけやろう,ここを重点的にやろう,そしてこのような展開でやろうと考えるわけだ。これが大切なのである。授業延長をして良いのであれば緊張感のないわかりづらいダラダラとした授業になってしまう。また授業時間が延び授業が休み時間に食い込むと,休み時間が減ってしまう。この時間は子どもにとって「授業と同じように大切な時間」なのである。そんな大切な時間を教師の強権で子どもから奪うのである。こういう教師は,子どものことを思いやる優しさに欠け,子どもの配慮に欠けていると言える。授業時間の枠を守り,その中で最大限の工夫をすることは「授業技量向上」の出発点である。

時間を守るためには,無駄なことば,無駄な行為を削る必要がある。  前掲書

授業終了のチャイムが鳴ったら,子どもたちは教師の話など上の空である。真面目な子の集中力も切れる。授業時間が度々延びる。それだけで特別支援を要する子どもたちの気持ちも不安定になっていく。発達障害の子は見通しを持ちづらい。
時間を守るためには,無駄な言葉,無駄な行為を削りに削る必要がある。
例えば授業以外においてもスピーチや会議の発言などに,実力は反映される。スピーチが短い人は腕がいいのである。スピーチが短くできるということの中には様々な要素が入っている。ポイントを整理する能力,重点を選択する能力,相手にわかりやすく組み立てる能力,聞いている人への心遣い。これらのことが骨子となって短いスピーチができるのである。普段から時間を意識することが大切である。

プロの教師は常に時間を意識しなければならない。
(熱中する授業は「授業の原則」に貫かれている(教え方のプロ・向山洋一全集 ) 明治図書)

チャイムと同時に始まらなければ教師自ら時間を守らなくてもいいと言っているようなものである。ではどのように時間通りに授業を始めれば良いのだろうか。

「きをつけ,これから3時間目の勉強を始めます。礼」のような儀式をやると,「子どもは集中する」という。しかし小学校で,担任の先生に,毎時間やらされるものだから,子供は,そっぽを向きながらやってしまう。何人かが横を向いたり,しゃべりながら礼をしたり,惰性の動きを何の緊張感もなくやっているだけである。ときには,「静かにしてください」などと,注意が入る。貴重な授業のはじまりが,2分,5分と浪費されていく。これでは,時間通りに授業を始めることができない。
そこで授業開始の儀式をやめて,最初から子どもたちを授業に集中させる工夫をする。優れた先生は,授業の最初から全ての子どもたちを引き込む。「授業の最初をどうするか」を,考え,工夫をし,努力をする必要がある。もちろん駆け出し時代はうまくいかない。2年,3年と努力しているうちに,最初の1分で授業に引き込めるようになる。
(“授業開始15秒”のつかみが授業の勝負 (教え方のプロ・向山洋一全集)明治図書)
授業がスムーズに展開していくためには,最初の1分が重要である。
(熱中する授業は「授業の原則」に貫かれている(教え方のプロ・向山洋一全集 ) 明治図書)

最初の1分間を,子どもたちに関心を持たせ,学習活動へ引き入れるのである。活動の遅い子どもを待っていては,授業に引き込めない。例えば算数の授業では次のような方法がある。

黒板にチョークで丸(円)を書いた。「ノートに写しなさい」と指示した。10秒後,「まだ書けていない人はたちなさい」と言って立たせた。「円を書いたら座りなさい」と指示する。ノートを用意していた子は10秒で終わる。何も用意していない子が,ガサゴソ机の中から教科書,ノートを引っ張り出すのである。そういう子を待つ必要はない。楽しい授業ならすぐ追いついてくる。次のときには用意して待っている。
前掲書

統率力のない教師がクラスを上手にまとめられるはずがない。
向山洋一氏は以下のように述べている。

教師に統率力があるかないかを見分けるのは簡単だ。時間の管理能力をみればいい。
(向山洋一氏「教室の統率力」向山洋一全集〈75〉明治図書)

授業進度が明らかに遅れているクラスがある。子どもも親も心配し始める。遅れだしたからと子どもの理解も考えずに,驚きのスピードで一気に進める。保護者からクレームの電話がかかることもある。そうなると保護者の中で噂となり,レッテルを張られようになる。時間管理能力がないからだ。
授業進度が遅れてしまう原因は様々挙げられる。以下,原因と解決策を挙げる。
①45分の授業時間を守らず,ダラダラ授業をやってしまう。
向山氏は授業時間を守らない教師を以下のように述べている。

授業が延びる先生は言い訳をします。途中で終わるときりが悪いから,子ども達の理解の,きりの良いところで授業を終わろうという考えなのでしょうがすべてが先生の思い上がりであり,勘違いです。
(向山洋一氏「こんな先生に教えられたらダメになる!」PHP)

45分間という授業時間で限られた枠組みの中で行うから教師にも緊張感が生まれ,大切なことを重点的にやろうと展開を考えるのである。
②授業終了後に次の教科の準備をせずに休み時間に入る。
授業開始後に「〇〇の教科書を出しましょう」と言って出させることがある。それがいつも続くと「なんで出していないの」と叱るようになる。「黄金の3日間」で伝えておかないといけない必須のソーシャルスキルである。準備している子を褒め,出すようにする。「教えてほめる」である。
③いつも開始の工夫がなく形式的である。
毎時間,開始の内容が決まっていて形式的になっている教師がいる。
最初から授業開始で子ども達を引き付ける工夫が大切である。「チャイムが鳴ったと同時に問題を出す」「ものを準備する」「フラッシュカードで始める」等,工夫はいくらでもある。そこから一気に授業に進めていく。一瞬で子ども達を引き込もうとする努力を毎日毎時間続けるべきだ。
このようなこと努力をするからこそ,予定進度が遅れない。
子どもの決められた授業の進度にするから,子どもも親も安心するのである。